市朗妖怪百科とは
実話系怪談を語る怪談師や作家、タレントが増えている。
語り手も聞き手も、怪異だの幽霊だのを本気で信じているのかどうかは解らないが、古来より日本人はこういった怪談を楽しむ遺伝子を持っているらしい。
しかし、そんな中で、狐狸に化かされたり、河童や天狗に遭遇した、巨龍を見たという話があったとしたら、どう思れるだろうか?
幽霊は人が死んで成仏できなかったもの。それは百歩譲って理解したとして、妖怪なんてこの現代社会にいるわけがない。そう思われるだろう。
だが一方で、そんな現代の妖怪遭遇談が、私の元には集まってきている。そんな妖怪譚をまとめ、お聞かせすることにしたい。
同時に、古文献や伝承に現れた妖怪たちと比較、関連付けながら、わが日本に今も棲みつく妖怪たちを紹介しようと試みるものである。
内容紹介
『植物の霊と龍を見た人』
人は幽霊となり、動物も化けたり、死んで低級な霊になると古来より伝えられる。それだけではない。九十九神が器具、道具に取り付くように、植物にも霊が宿るという考えが日本にはある。
この巻ではそんな草木と心を通わし、また呪われたという実話系怪談を披露して見よう。
そして、なんと龍をこの目で見たという人たちが、この現代にもいる。そんな摩訶不思議な話を紹介しながら、龍についても考察してみることにする。
「解説・植物に心はあるのか」(18分)
「草木も眠る丑三つ時」という言葉がある。人や動物と同じく植物も夜になると眠るのだ、という比喩である。
中世ヨーロッパには動物にも霊は宿らないという概念があったが、日本人は違う。草木でさえも妖怪となって人間に何かを訴えると言うのである。
「八重桜」(5分)
渋谷区の大邸宅に住んでいたA子さん。その庭に大きな八重桜があり彼女は幼少の頃からこの桜に愛着を持っていた。しかし中学の頃、引っ越してしまうことになり…。
大学生となった春、「モウアエナイヨ」というメッセージがどこからともなく来た。
「桜の木」(4分)
「わしが死んだら、大切にしていた庭の桜の木をわしの墓の隣に植えてくれ」、そう言い残して兄は亡くなった。弟はその遺言を叶えてやろうとするが周りが反対した。
「それは縁起が悪いからやめとけ」。しかし弟は強制的に桜を墓地に植え直した。すると奇妙なことに…。
「梅の花」(3分)
ある春、女流漫画家さんの家の梅の木が咲いた。ピンクの花をいっぱい咲かせたのだ。しかし漫画家さんはその色に不満を感じ呟いた。
すると次の年の春、なんとその梅の木は…。
「グラジオラス」(3分)
ある人が愛犬と死に別れた。辛いので犬小屋も処分し二度と犬は飼わないことを決めた。 しかし犬小屋跡に一本のグラジオラスが芽を出し、黄色い花を咲かせた。しかしここも駐車場となりグラジオラスも取っ払われた。
ところが駐車場の端にまたグラジオラスが芽を出し、やがて黄色い花を咲かせた…。
「サボテンと薔薇のトゲ」(5分)
植物に感情はあるのだろうか。19世紀の米国にルーサー・バーバンクという植物学者がいた。彼はバラやサボテンに愛情をこめて接し、言葉を掛けて育てるうちにトゲの無いバラやサボテンの品種改良を成功させた。
彼の愛情が、バラやサボテンの警戒心を解き、トゲを捨てさせたというのである。キリスト教の原理主義者たちはそれを認めず、ルーサーは何度も彼らと討議し、激論を交わしたという。
「泣く花」(6分)
ある老夫婦が信貴山に登った。ガイドさんからは「ここは信仰の山なので、生えている草木は持ち帰らないように」と注意されていた。
しかし奥さんがその禁を破ってしまった。こっそり持ち帰った黄色い花を咲かせる水仙。ところがその夜から老夫婦は、あることに悩ませられることとなる。
「無花果の木」(5分)
昔、阪急電車正雀駅近くに、無花果の木があった。その枝が伸びると近くの踏切まで達し、電車の通行を邪魔するようになる。だがその枝を伐採すると必ず事故が起きるという。
そのことを知ったテレビ番組のクルーが取材にやって来た。
「ビワと無花果」(5分)
E子さんの叔父の庭に美味しい実をつける無花果の木があった。ある時叔父は、その庭にビワの木を植えた。それを知ったE子さんの祖父が「無花果の木のある庭に、ビワを植えるバカがいるか!」と怒鳴り込んでいった。
やがて祖父の言葉が正しかったことを知る。叔父一家はその後…。
「首吊りの木」(5分)
兵庫県のある山近くに年老いた樵(きこり)がいた。ある日、いつもの山に登ったら、ある木の枝々におびただしい白装束の小人がぶら下っていた。よく見ると首を吊っていたという。
樵はそのことをひどく恐れていたが、翌日もその山に作業の為に登った。そして樵は戻ってこなかった。
「首吊りの木・その二」(8分)
ある芸人が、幼い頃親戚の家の近くの神社で首吊りがあって、その後神社に行ってみると恐ろしいことがあったと言い、そこに案内してくれるという。
私は早速、現地へ行きその木の前でビデオカメラを廻した。するとカメラに異変が起った。
「柿の木」(2分)
ある醬油さんの庭に一本の柿の木があった。奥さんが仕事の最中、ふっとその柿の木を見て、なぜか無性に首を吊りたくなった。納屋に入って適当な台と縄を持ち出した。
そして柿の木の下に台を置き、縄に輪っかをつくって首を中に入れた。そして…。
「龍を見た人」(7分)
Yさんは祖父から継いだ吉野の古い家に泊まった。代々長男はこの家の床の間で一度は寝ることになっている。
真夜中、Yさんは見た。突然、天井にまばゆい光が出来て、その光のヌシが欄間の向こうからやって来る。それは黄金に輝く…。
「解説・龍とは何か」(15分)
龍とは、想像上の動物である、と各事典に掲載される。しかし古代中国においては実在したと考えられていた。そして皇帝の象徴ともなり道教の神々にもなった。
日本において、応神天皇までの天皇は、龍であったとする古文献もある。
「庭の龍」(6分)
Sさんの実家に、土塀で囲まれた日本庭園がある。幼い頃、その庭園でSさんは妙なものを見た。それは隊長4〜50センチのとぐろを巻いた、龍だった。大声で家族を呼んだが誰も信用してくれない。もやもやしたまま大人になった。
ところが今年になって、それが見間違いや気のせいではないと確信した出来事があったのだ。
「龍が見える人」(5分)
ある女性は、職場でA子さんという同僚と知り合った。A子さんは不思議な人で、たまに朝日を浴びた雲の中に龍を見ることがあるという。そして龍を見た日に、必ずあることが起きるのだという。
ところがこの女性も、A子さんの影響を受けたのか、ある感覚が鋭くなって…。
「龍の昇天」(5分)
あるミュージシャンは奈良県の田舎の出身だという。そして彼の祖父や同世代の村人たちは、みんなである現象を見たという。
それは、全員で龍が昇天する瞬間を見たのだという。詳しい話を聞いてみた。
中山 市朗(なかやま いちろう) プロフィール
作家、怪異収集家
1982年、大阪芸術大学映像計画学科卒業。映画の助監督や黒澤明監督の『乱』のメイキングの演出などに携わる。
1990年、扶桑社から木原浩勝との共著で『新耳袋〜あなたの隣の怖い話』で作家デビュー。『新耳袋』はそれまでただ怪談で括られていたものから、実話だけにこだわり百物語を一冊の著書で実現化させた。
『新耳袋』は後にメディアファクトリーより全十夜のシリーズとなり復刊。『怪談新耳袋』として映画やドラマ、コミックとして展開。
Jホラーブームを作った作家や映画監督に大きな影響を与え、ブームをけん引することになる。
著書に『怪異異聞録・なまなりさん』『怪談実話系』『怪談狩り』シリーズなどがある。
怪談は語ることが重要と、ライブや怪談会、放送などでも積極的に怪談語りを行っている。その他の著書に『捜聖記』『聖徳太子・四天王寺の暗号』『聖徳太子の「未来記」とイルミナティ」など多数。
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