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柳田国男 遠野物語

[オーディオブック] 遠野物語

柳田国男
パンローリング
マンスリープラン対象商品 ダウンロード販売 MP3 206分 120ファイル 2019年2月発売
本体 1,500円  税込 1,620円

  

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内容紹介

天狗、ザシキワラシ、雪女、川童――
古くより岩手県遠野地方に息づく伝説・伝承
百十九話を収録

「国内の山村にして遠野よりさらに物深き所にはまた無数の山神山人の伝説あるべし。願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。」

『遠野物語』は日本民俗学の父・柳田国男が、遠野地方で生まれ育った佐々木喜善から民話や伝承を聞き集めて、100年以上前に刊行したものです。
江戸時代、遠野地方は内陸部と沿岸部を結ぶ交易の拠点として多くの人々が集まり、そこに多くの物語・民話が集まったと言われています。
山間の閉ざされた地で口々に広がり、語り紡がれてきた伝説・伝承は、現代に生きる私たちにも何か大切なことを語りかけてくるようです。

題目(下の数字は話の番号なり、ページ数にはあらず)

地勢 一、五、六七、一一一
神の始 二、六九、七四
里の神 九八
カクラサマ 七二―七四
ゴンゲサマ 一一〇
家の神 一六
オクナイサマ 一四、一五、七〇
オシラサマ 六九
ザシキワラシ 一七、一八
山の神 八九、九一、九三、一〇二、一〇七、一〇八
神女 二七、五四
天狗 二九、六二、九〇
山男 五、六、七、九、二八、三〇、三一、九二
山女 三、四、三四、三五、七五
山の霊異 三二、三三、六一、九五
仙人堂 四九
蝦夷の跡 一一二
塚と森と 六六、一一一、一一三、一一四
姥うば神 六五、七一
館たての址 六七、六八、七六
昔の人 八、一〇、一一、一二、二一、二六、八四
家のさま 八〇、八三
家の盛衰 一三、一八、一九、二四、二五、三八、六三
マヨイガ 六三、六四
前兆 二〇、五二、七八、九六
魂の行方 二二、八六―八八、九五、九七、九九、一〇〇
まぼろし 二三、七七、七九、八一、八二
雪女 一〇三
川童 五五―五九
猿の経立ふったち 四五、四六
猿 四七、四八
狼おいぬ 三六―四二
熊 四三
狐 六〇、九四、一〇一
色々の鳥 五一―五三
花 三三、五〇
小正月の行事 一四、一〇二―一〇五
雨風祭 一〇九
昔々 一一五―一一八
歌謡 一一九

この書を外国に在る人々に呈す

    この話はすべて遠野の人佐々木鏡石君より聞きたり。昨明治四十二年の二月ごろより始めて夜分おりおり訪ね来たりこの話をせられしを筆記せしなり。鏡石君は話上手にはあらざれども誠実なる人なり。自分もまた一字一句をも加減せず感じたるままを書きたり。思うに遠野郷にはこの類の物語なお数百件あるならん。我々はより多くを聞かんことを切望す。国内の山村にして遠野よりさらに物深き所にはまた無数の山神山人の伝説あるべし。願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。この書のごときは陳勝呉広のみ。

    昨年八月の末自分は遠野郷に遊びたり。花巻より十余里の路上には町場三ヶ所あり。その他はただ青き山と原野なり。人煙の稀少なること北海道石狩の平野よりも甚し。或いは新道なるが故に民居の来たり就ける者少なきか。遠野の城下はすなわち煙花の街なり。馬を駅亭の主人に借りて独り郊外の村々を巡りたり。その馬は黔き海草をもって作りたる厚総を掛けたり。虻多きためなり。猿ヶ石の渓谷は土肥えてよく拓けたり。路傍に石塔の多きこと諸国その比を知らず。高処より展望すれば早稲まさに熟し晩稲は花盛りにて水はことごとく落ちて川にあり。稲の色合は種類によりてさまざまなり。三つ四つ五つの田を続けて稲の色の同じきはすなわち一家に属する田にしていわゆる名処の同じきなるべし。小字よりさらに小さき区域の地名は持主にあらざればこれを知らず。古き売買譲与の証文には常に見ゆる所なり。附馬牛の谷へ越ゆれば早池峯の山は淡く霞山の形は菅笠のごとくまた片仮名のへの字に似たり。この谷は稲熟することさらに遅く満目一色に青し。細き田中の道を行けば名を知らぬ鳥ありて雛を連れて横ぎりたり。雛の色は黒に白き羽まじりたり。始めは小さき鶏かと思いしが溝の草に隠れて見えざればすなわち野鳥なることを知れり。天神の山には祭ありて獅子踊りあり。ここにのみは軽く塵たち紅き物いささかひらめきて一村の緑に映じたり。獅子踊というは鹿の舞なり。鹿の角をつけたる面を被り童子五六人剣を抜きてこれとともに舞うなり。笛の調子高く歌は低くして側にあれども聞きがたし。日は傾きて風吹き酔いて人呼ぶ者の声も淋しく女は笑い児は走れどもなお旅愁をいかんともする能わざりき。盂蘭盆に新しき仏ある家は紅白の旗を高く揚げて魂を招く風あり。峠の馬上において東西を指点するにこの旗十数所あり。村人の永住の地を去らんとする者とかりそめに入りこみたる旅人とまたかの悠々たる霊山とを黄昏は徐に来たりて包容し尽したり。遠野郷には八ヶ所の観音堂あり。一木をもって作りしなり。この日報賽の徒多く岡の上に灯火見え伏鉦の音聞えたり。道ちがえの叢の中には雨風祭の藁人形あり。あたかもくたびれたる人のごとく仰臥してありたり。以上は自分が遠野郷にてえたる印象なり。

    思うにこの類の書物は少なくも現代の流行にあらず。いかに印刷が容易なればとてこんな本を出版し自己の狭隘なる趣味をもって他人に強いんとするは無作法の仕業なりという人あらん。されどあえて答う。かかる話を聞きかかる処を見てきてのちこれを人に語りたがらざる者果たしてありや。そのような沈黙にしてかつ慎み深き人は少なくも自分の友人の中にはあることなし。いわんやわが九百年前の先輩『今昔物語』のごときはその当時にありてすでに今は昔の話なりしに反しこれはこれ目前の出来事なり。たとえ敬虔の意と誠実の態度とにおいてはあえて彼を凌ぐことを得うという能わざらんも人の耳を経ること多からず人の口と筆とを倩いたること甚だ僅わずかなりし点においては彼の淡泊無邪気なる大納言殿かえって来たり聴くに値せり。近代の御伽百物語の徒に至りてはその志やすでに陋かつ決してその談の妄誕にあらざることを誓いえず。窃にもってこれと隣を比するを恥とせり。要するにこの書は現在の事実なり。単にこれのみをもってするも立派なる存在理由ありと信ず。ただ鏡石子は年わずかに二十四五自分もこれに十歳長ずるのみ。今の事業多き時代に生まれながら問題の大小をも弁えず、その力を用いるところ当を失えりという人あらば如何。明神の山の木兎のごとくあまりにその耳を尖がらしあまりにその眼を丸くし過ぎたりと責むる人あらば如何。はて是非もなし。この責任のみは自分が負わねばならぬなり。

おきなさび飛ばず鳴かざるをちかたの森のふくろふ笑ふらんかも

柳田国男

柳田国男(やなぎだ・くにお)

1875年、兵庫県生まれ。東京帝国大学卒業後、農商務省に勤務。貴族院書記官長を経て、朝日新聞社客員となる。1935年、「民間伝承の会(のち日本民俗学会)」を創始し、日本民俗学を確立する。1951年、文化勲章受賞。1962年没。主な著書に『遠野物語』『海上の道』『妖怪談義』『桃太郎の誕生』『木綿以前の事』他多数。

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