内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
漢詩は和歌や俳句とともに、永く日本人に親しまれて来た文学形式ですが、漢字ばかりで作られるため、気おくれしてしまう人もおられるようです。
が、そのいかめしい外見から一歩中に入ってみると、まことに多彩で魅力ある世界が現れて来ます。
それは或る種の果物に似ています。西瓜(スイカ)の、あの固い緑色の外皮の中には赤くジューシーな果肉が、また荔枝(ライチ)の、あの固いトゲだらけの、茶色の外皮の中には、丸くて白く、甘い果肉が包まれています。
このシリーズは、漢詩のそのような果実をなるべくわかりやすくお伝えするもので、名作の数々を、時代背景や作者の境遇と合わせてお話ししてゆきます。
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地は、まさしくファンタステイック!と言えるでしょう。
〈第十六回 悲喜こもごも〉
七言古詩「百憂集行」は、前回に続き、上元2年(761)、50歳の作。さまざまの心配事につきまとわれる現状を嘆き、何の悩みもなかった少年時代をなつかしむとともに、ますます家族に愛情を感じていることを詠みます。うらぶれていながらどこか剽軽(ひょうきん)でほのぼのとした雰囲気は、家族への杜甫の愛情の表れでしょう。
そして広徳元年(763)、52歳の正月、足かけ9年にわたった安史の乱がついに平定されます。その直後に作った七言律詩「官軍の 河南河北を収むるを聞く」は、乱平定への爆発的な喜びを一気呵成に吐露したような勢いにあふれています。
しかし、この歓喜も束の間の夢に終わりました。乱の平定を援助したウィグルの軍隊が内地で横暴なふるまいを始め、またチベット軍が各地に侵入するなど不穏な形勢となり、杜甫一家は蜀の各地を転々とする生活を強いられることになるのです。
今回の詩のテーマは、自分への問いかけ、家族へのまなざし、客人への語りかけ、自然のめぐみへの感謝、と多様なものになっています。
収録作品
百憂集行(ひゃくゆうしゅうこう) 七言古詩
聞官軍収河南河北(官軍の河南河北を収むるを聞く) 七言律詩
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「ファンタスティック!漢詩ワールド」ミニテキスト(PDFデータ)
をプレゼントいたします。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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