内容紹介
信じてきた恋の幻想が消えてしまった瞬間、腹を決めて現実に向き合うことができる。つらい過去も強く心に決めた恋からも解き放たれて、目の前の幸せに向かって迷いなく進む。愛に飢えた少女から強く生きる女性に成長した“さわ”の解放の物語。
賢くて器量のよい妹ばかり可愛がる父母は自分のことを気にかけてもくれない。不遇な少女時代を過ごす“さわ”は、似た境遇の国吉と榎の木の下で愛を誓い合った。しかし、唯一の味方だと思っていた老僕の足助が、ゆがんだ愛情で恋の行く手を阻む。ある日、山津波がさわの村をおそい、家族はみんな死んでしまった。生き残ったさわは、国吉を思い続けながら一人で暮らすが、資産家の若旦那・安二郎から熱烈な思いを寄せられる。
山本周五郎(やまもと・しゅうごろ)
1903〜67年。小説家。山梨の生まれ。本名・清水三十六(さとむ)。名は生まれ年からつけられ、筆名は東京で徒弟として住み込んだ質屋「山本周五郎商店」にちなんだ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。代表作には、「樅(もみ)ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「おさん」「青べか物語」「さぶ」などがある。1987年9月には、「山本周五郎賞」が新潮文芸振興会により設定された。
|