内容紹介
山本周五郎は「文学には“純”も“不純”もなく、“大衆”も“少数”もない。ただ“よい小説”と“わるい小説”があるばかりだ」を信念とし、普遍妥当性をもつ人間像の造形を生涯の目的とした作家で、時代小説を中心に沢山の作品を残しています。
その作風は今なお古臭さを感じさせず、繊細に描かれた人の心の機微や人情に、思わず笑わされたり、胸を打たれたりする魅力に溢れています。
<あらすじ>
功刀功兵衛は御用金を使ってひそかに金貸しをしていた苅田壮平を追及し、怒り心頭だった。貧しい侍たちを獲物にしたばかりか、花街の馴染みの女を通して娼婦たちにまで高利貸しを行って苅田のことは、藩でも大ごとになるため、功兵衛は城代家老に報告する前に、世話になっている次席家老の越川斎宮に相談を持ち掛けていた。
そんな中、功兵衛だけを狙って物乞いにくる老乞食がいた。自分だけに物乞いをする乞食を誰何すると、さくらと名乗った。
八年前に功兵衛の妻であったさくらは家来と出奔し、世間体を恐れた功兵衛は病死と届け出て、葬式まで行った過去があった。
現在の妻ふじが身ごもった時分に、自身のことをゆすりに来たさくらのことを恐れた功兵衛は苦悩するが、それと同時に正面からぶつかって確かめなければならないと腹を決めた。
そして、さくらに身支度を整えさせ、さのやという料亭で功兵衛は再び彼女と対面するのだが……。
山本周五郎(やまもと・しゅうごろう)
1903〜67年。小説家。山梨の生まれ。本名・清水三十六(さとむ)。名は生まれ年からつけられ、筆名は東京で徒弟として住み込んだ質屋「山本周五郎商店」にちなんだ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。代表作には、「樅(もみ)ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「おさん」「青べか物語」「さぶ」などがある。1987年9月には、「山本周五郎賞」が新潮文芸振興会により設定された。
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