内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
このシリーズは日本の漢詩について、さまざまの立場で歴史の舞台に登場した人々にスポットをあて、その作品と人生を解説する、という方式で進めてまいります。
日本人の伝統詩歌としては、漢詩・短歌・俳句があげられるでしょう。この三形式のなかでは、親しまれた期間の長さにおいても、創作の歴史の長さにおいても、漢詩が抜きんでています。何しろ日本人は既に飛鳥時代、つまり七世紀後半ごろから、漢詩を「読む」だけではなく、「自分で作る」という段階に入っていました。以来、今日まで千三百年以上にわたり、漢詩は日本人の心を表す形式として親しまれているのです。
漢詩に表れた日本人の心、その特質は何かと言えば、それは「公と正義の感覚」ということになります。花鳥風月や、男女の心の機微は、漢詩では最も重要な関心事にはなりません。そうではなく、社会がどうあるべきか、それを目指す中で個人はどうふるまうべきかを模索し、その考察の結果やそれに伴うさまざまの感慨を表現する、それが漢詩の本道です。
このシリーズによって、そのような漢詩の魅力と奥深さを少しでもお伝えすることができれば幸いです。
第六回 和漢交響――与謝蕪村
与謝蕪村(1716~83)は、江戸中・後期の俳人・画家。天明期(1781~89)の俳諧中興の
中心であり、画家としては池大雅(いけのたいが)とともに日本南画の様式を確立、また俳諧の境地を絵に描き、「俳画」の先駆けとなりました。
蕪村は漢詩の実作にも堪能で、俳諧のまえがきとして漢詩体の詩句をしるしたり、絵画に添える俳諧を求められると、代わりに漢詩を書きつけたり、ということもよくありました。とくに興味深いのは、連作詩において漢詩と漢文訓読体の詩(漢字かな交じり)とを並べたり、一首の中でそれらを併存させたりする手法が見られることでしょう。これは当時、漢詩文および訓読の文体が日本語の中にすっかり浸透していたことを示しており、和文脈と漢文脈との連結による新しい世界は、まことに私たちの心を引きつけてやみません。
収録作品
澱河の歌三首 其の一
其の二
其の三
春風馬堤の曲
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「知っておきたい 日本の漢詩」ミニテキスト(PDFデータ)
が付属しています。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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