内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
漢詩は和歌や俳句とともに、永く日本人に親しまれて来た文学形式ですが、漢字ばかりで作られるため、気おくれしてしまう人もおられるようです。
が、そのいかめしい外見から一歩中に入ってみると、まことに多彩で魅力ある世界が現れて来ます。
それは或る種の果物に似ています。西瓜(スイカ)の、あの固い緑色の外皮の中には赤くジューシーな果肉が、また荔枝(ライチ)の、あの固いトゲだらけの、茶色の外皮の中には、丸くて白く、甘い果肉が包まれています。
このシリーズは、漢詩のそのような果実をなるべくわかりやすくお伝えするもので、名作の数々を、時代背景や作者の境遇と合わせてお話ししてゆきます。
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地は、まさしくファンタステイック!と言えるでしょう。
〈第四回 帝都震撼〉
都長安での十年に及ぶ不如意な境遇のため、自負心の強い杜甫の心はしだいに失意と苦悩の度を強めてゆきます。が、それはやがて、現実社会の矛盾や腐敗をきびしく見つめ、指弾する批評精神として昇華されてゆきました。
今回取り上げる雑言古詩「兵車行」は、天宝9〜11年(杜甫39〜41歳)、ちょうどその時期の作で、彼は以後8年間、政治に絶望して秦州(甘粛省)に疎開するに至るまで、社会派詩人・人道主義詩人としての詠みぶりを強く見せることとなります。
これより先、玄宗皇帝は、領土拡張政策のもとに辺境の攻略を進めていましたが、天宝年代に入ると辺境異民族の叛乱が相次ぎ、内地からの召集・外征はますます苛酷なものになってゆきました。不遇の生活を通じて社会への目を開かれた杜甫は、その状況を黙って見ていることができなかったのです。
収録作品
兵車行(へいしゃこう) 雑言古詩
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「ファンタスティック!漢詩ワールド」ミニテキスト(PDFデータ)
をプレゼントいたします。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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