内容紹介
山本周五郎は「文学には“純”も“不純”もなく、“大衆”も“少数”もない。ただ“よい小説”と“わるい小説”があるばかりだ」を信念とし、普遍妥当性をもつ人間像の造形を生涯の目的とした作家で、時代小説を中心に沢山の作品を残しています。
その作風は今なお古臭さを感じさせず、繊細に描かれた人の心の機微や人情に、思わず笑わされたり、胸を打たれたりする魅力に溢れています。
<あらすじ>
参太は、おさんという女と一夜を共にし、そのからだに心根に、ぞっこん惚れ込んでしまった。おさんは、体に目の細やかな神経の網が潜んでいるように、異常に敏感で、事に及んだときは、おさんにも歯止めが効かないほどになり、参太もそれに溺れてしまった。そして、遂にはおさんに結婚を決めていた相手がいたことも知らずに、おさんを説き伏せて、親方の許しを得て所帯を持つまでになった。
ある日、おさんは「江戸に連れて行って欲しい」とお願いをした。参太は聞き入れるが、ひとつ気がかりなことがあった。それは、事の最中におさんが口にした男の名だ。その時は、おさんに男が出来たと思ってかっとなって、問い詰めてしまうくらいだ。おさんは「死んだお父っつぁんの名がそうだったわ」とにわかに信じがたいことを言ったが、嘘をついている素振りもない。
心に引っ掛かりを覚えながらも、参太はおさんと連れ立って江戸へ旅立つのだが……
山本周五郎(やまもと・しゅうごろう)
1903〜67年。小説家。山梨の生まれ。本名・清水三十六(さとむ)。名は生まれ年からつけられ、筆名は東京で徒弟として住み込んだ質屋「山本周五郎商店」にちなんだ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。代表作には、「樅(もみ)ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「おさん」「青べか物語」「さぶ」などがある。1987年9月には、「山本周五郎賞」が新潮文芸振興会により設定された。
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