内容紹介
山本周五郎は「文学には“純”も“不純”もなく、“大衆”も“少数”もない。ただ“よい小説”と“わるい小説”があるばかりだ」を信念とし、普遍妥当性をもつ人間像の造形を生涯の目的とした作家で、時代小説を中心に沢山の作品を残しています。
その作風は今なお古臭さを感じさせず、繊細に描かれた人の心の機微や人情に、思わず笑わされたり、胸を打たれたりする魅力に溢れています。
<あらすじ>
幼いころに両親を亡くした直吉は、貧しい暮らしをする叔父夫婦に引き取られる。気の強い叔母に折檻されながら育った直吉は、9歳の年に指物師の親方・六兵衛の店である紀六に住み込みで働くことになる。やがて、六兵衛とその妻のお幸の間には女の子が生まれ、直吉はまきと名付けられた赤ん坊の子守を言い付けられる。年頃になったまきは、六兵衛の弟子である清次に恋をするが————。
ぐずでのろまだからこそ、見返りを求めず、一途で不器用な愛を惜しみなく注ぎ続けた直吉の恋物語。
江戸を生きる人々が、まるで本当にそこで生きているかのような下町情緒溢れる描写も魅力的な作品です。
山本周五郎(やまもと・しゅうごろう)
1903〜67年。小説家。山梨の生まれ。本名・清水三十六(さとむ)。名は生まれ年からつけられ、筆名は東京で徒弟として住み込んだ質屋「山本周五郎商店」にちなんだ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。代表作には、「樅(もみ)ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「おさん」「青べか物語」「さぶ」などがある。1987年9月には、「山本周五郎賞」が新潮文芸振興会により設定された。
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