内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
漢詩は和歌や俳句とともに、永く日本人に親しまれて来た文学形式ですが、漢字ばかりで作られるため、気おくれしてしまう人もおられるようです。
が、そのいかめしい外見から一歩中に入ってみると、まことに多彩で魅力ある世界が現れて来ます。
それは或る種の果物に似ています。西瓜(スイカ)の、あの固い緑色の外皮の中には赤くジューシーな果肉が、また荔枝(ライチ)の、あの固いトゲだらけの、茶色の外皮の中には、丸くて白く、甘い果肉が包まれています。
このシリーズは、漢詩のそのような果実をなるべくわかりやすくお伝えするもので、名作の数々を、時代背景や作者の境遇と合わせてお話ししてゆきます。
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地は、まさしくファンタステイック!と言えるでしょう。
〈第二十回 流浪の果てに〉
大暦3年(768)正月、杜甫一家は親族の招きに応じ、夔州を発って長江を下ってゆきます。その年の冬、57歳の杜甫は岳州(湖南省)の名所・岳陽楼を訪れ、五言律詩「岳陽楼に登る」を作りました。全編が対比の感覚によって緊密に構成された名作です。翌・大暦4年(769)春の五言律詩「白沙駅に宿す」は、洞庭湖の南に滞在した折の作。お茶目な技巧と深い絶望が共存する不思議な詩です。
翌・大暦5年(770)、59歳で世を去る半年前の作を二首。晩春の七言絶句「江南にて李亀年に逢う」は、潭州(たんしゅう=湖南省)で思いがけず玄宗朝の宮廷歌手・李亀年に、四十数年ぶりに再会した感慨を詠んだもの。同時期の七言律詩「小寒食 舟中の作」は、舟の中から春景色を眺めて心境を述べた作ですが、特に三、四句はどこか超現実的で、透明感・浮遊感を帯びています。それはまるで、彼が無意識のうちにここでこの世に別れを告げているかのように感じられるのです。
収録作品
登岳陽楼(岳陽楼に登る) 五言律詩
宿白沙駅(白沙駅に宿す) 五言律詩
江南逢李亀年(江南にて李亀年に逢ふ)七言絶句
小寒食舟中作(小寒食舟中の作) 七言律詩
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「ファンタスティック!漢詩ワールド」ミニテキスト(PDFデータ)
をプレゼントいたします。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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