内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
漢詩は和歌や俳句とともに、永く日本人に親しまれて来た文学形式ですが、漢字ばかりで作られるため、気おくれしてしまう人もおられるようです。
が、そのいかめしい外見から一歩中に入ってみると、まことに多彩で魅力ある世界が現れて来ます。
それは或る種の果物に似ています。西瓜(スイカ)の、あの固い緑色の外皮の中には赤くジューシーな果肉が、また荔枝(ライチ)の、あの固いトゲだらけの、茶色の外皮の中には、丸くて白く、甘い果肉が包まれています。
このシリーズは、漢詩のそのような果実をなるべくわかりやすくお伝えするもので、名作の数々を、時代背景や作者の境遇と合わせてお話ししてゆきます。
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地は、まさしくファンタステイック!と言えるでしょう。
〈第十五回 折々の感慨〉
成都時代の詩、今回は上元2年(761)、50歳の作。まず、春に作られた七言律詩「江上 水の海勢の如くなるに値(あ)ひ 聊(いささ)か短述す」。錦江の増水を目にし感興を覚えて作ったものですが、情景の描写がほとんどなく、心境告白調で、自分の作風の変化に対する感慨が主となっています。
晩春の五言律詩「江亭」は、春景色を眺めながら世相の混迷を憂えたもので、のどかな雰囲気にひたり切れない、晴れ晴れしない気分が勝っている作。そしてその秋の七言古詩「茅屋(ばうをく) 秋風の破る所と為るの作」は、暴風に草堂の屋根を吹き飛ばされ、ますます暮らしにくくなった嘆きを詠んだもの。しかし作中のところどころにユーモラスな描写が顔を出して泣き笑いのような雰囲気を作り、また結びの部分には、自分の体験を常に天下社会の問題を考えるきっかけとする杜甫の特色がはっきり現れています。
今回の詩のテーマは、自分への問いかけ、家族へのまなざし、客人への語りかけ、自然のめぐみへの感謝、と多様なものになっています。
収録作品
江上値水如海聊短述(江上 水の海勢の如くなるに値ひ 聊か短述す) 七言律詩
江亭(こうてい) 五言律詩
茅屋為秋風所破歌(茅屋 秋風の破る所と為るの歌)第一段 七言古詩
茅屋為秋風所破歌 第二段
茅屋為秋風所破歌 第三段
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「ファンタスティック!漢詩ワールド」ミニテキスト(PDFデータ)
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※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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