内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
漢詩は和歌や俳句とともに、永く日本人に親しまれて来た文学形式ですが、漢字ばかりで作られるため、気おくれしてしまう人もおられるようです。
が、そのいかめしい外見から一歩中に入ってみると、まことに多彩で魅力ある世界が現れて来ます。
それは或る種の果物に似ています。西瓜(スイカ)の、あの固い緑色の外皮の中には赤くジューシーな果肉が、また荔枝(ライチ)の、あの固いトゲだらけの、茶色の外皮の中には、丸くて白く、甘い果肉が包まれています。
このシリーズは、漢詩のそのような果実をなるべくわかりやすくお伝えするもので、名作の数々を、時代背景や作者の境遇と合わせてお話ししてゆきます。
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地は、まさしくファンタステイック!と言えるでしょう。
〈第九回 世相に触れて〉
華州時代の杜甫は、親族や知友に宛てた詩も多く作っています。前回にはそのうち二首を見ましたが、今回もその系列の作、五言律詩「思ふ所」から。これは玄宗朝の著名な文人官僚、鄭虔(ていけん)に贈ったものです。杜甫は若いころから鄭虔に兄事していましたが、その鄭虔が安史の乱の一時期、叛軍から官職を授けられたためえ、南の台州(浙江省)に流罪となったのです。詩中、杜甫は鄭虔の健康を祈り、彼を救えない自分の無力を嘆いています。
つづいてこの時期の五言古詩の連作〈三吏三別〉から「石壕(せきごう)の吏」を見ます。杜甫が洛陽から華州に帰る途中、石壕村に宿泊した折の体験を実録風に詠んだもの。この宿には、男の働き手は老翁一人しかいません。三人の息子はとうに徴発され、残っているのは老いた妻と、乳飲み子をかかえた若い嫁だけ。ところがその晩、役人が老翁を徴発しに訪れたのです・・・
収録作品
所思(思ふ所) 五言律詩
石壕吏(石壕の吏) 五言古詩
特典ダウンロード
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各回の収録作品を掲載した「ファンタスティック!漢詩ワールド」ミニテキスト(PDFデータ)
をプレゼントいたします。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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