内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
漢詩は和歌や俳句とともに、永く日本人に親しまれて来た文学形式ですが、漢字ばかりで作られるため、気おくれしてしまう人もおられるようです。
が、そのいかめしい外見から一歩中に入ってみると、まことに多彩で魅力ある世界が現れて来ます。
それは或る種の果物に似ています。西瓜(スイカ)の、あの固い緑色の外皮の中には赤くジューシーな果肉が、また荔枝(ライチ)の、あの固いトゲだらけの、茶色の外皮の中には、丸くて白く、甘い果肉が包まれています。
このシリーズは、漢詩のそのような果実をなるべくわかりやすくお伝えするもので、名作の数々を、時代背景や作者の境遇と合わせてお話ししてゆきます。
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地は、まさしくファンタステイック!と言えるでしょう。
〈第七回 波乱はつづく〉
至徳2年(757)、杜甫46歳、鄜州にたどり着いての感慨を詠んだ「羌村三首」。「其の二」は、なすすべもなく老いてゆく不安と焦りを、「其の三」は、慰問に来てくれた村の長老たちとのひと時を詠んでいます。
この年は安史の乱の戦局が大きく変わり、10月に長安と洛陽が奪回され、粛宗と玄宗が相次いで長安に戻りました。翌11月には杜甫一家も長安へ帰り、杜甫自身は左拾遺の勤務を続けます。五言律詩「春 左省に宿(しゅく)す」は、宿直中の作。明朝、大切な意見書の提出を控え、はやる心と使命感とを詠んでいます。同じころの七言律詩「曲江二首」は打って変わって、粛宗の不興を買ってしまった挫折感や悔恨が前面に出て、頽廃的な詠みぶりになっています。
その二ケ月後の六月、杜甫は旧知の元宰相の左遷に連座する形で華州(長安の東北90キロ)に左遷され、以後ついに再び長安の土を踏むことはありませんでした。
収録作品
羌村 三首(きょうそん) 其二 五言古詩
羌村 三首(きょうそん) 其三 五言古詩
春宿左省(春 左省に宿す) 五言律詩
曲江(きょっこう) 二首 其一 七言律詩
曲江(きょっこう) 二首 其二 七言律詩
特典ダウンロード
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各回の収録作品を掲載した「ファンタスティック!漢詩ワールド」ミニテキスト(PDFデータ)
をプレゼントいたします。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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