内容紹介
山本周五郎は「文学には“純”も“不純”もなく、“大衆”も“少数”もない。ただ“よい小説”と“わるい小説”があるばかりだ」を信念とし、普遍妥当性をもつ人間像の造形を生涯の目的とした作家で、時代小説を中心に沢山の作品を残しています。
その作風は今なお古臭さを感じさせず、繊細に描かれた人の心の機微や人情に、思わず笑わされたり、胸を打たれたりする魅力に溢れています。
<あらすじ>
おしずは三味線の師匠の妻であり、華を教える師匠である絹女から縁談を勧められた。それはおしずに対してではなく、妹のおたかへのものだった。
おしずとおたかはたまにしか家に寄りつかない兄二人に代わって、両親を養っていた。美しいと評判の姉妹ながら、未だに嫁に行かない二人については長いこと失礼な噂が立ったりもしてした。
おしずは縁談については直接おたかに話してくれと答えた。それで自然と妹からその話が出ると思ったが、五日六日と経ってもおたかは何も言い出さない。絹女の話から聞く限り、決して悪い話では無かったのだ。ただこれまで姉妹がこれまで結婚をしなかった理由はもう一つあり、それは一家の不安の種ではあった。だが、それはそれで解決できない訳ではない。しかし、その夜おしずはこう話し出したのだ。
「あたし今日失敗しちゃった」……
山本周五郎(やまもと・しゅうごろう)
1903〜67年。小説家。山梨の生まれ。本名・清水三十六(さとむ)。名は生まれ年からつけられ、筆名は東京で徒弟として住み込んだ質屋「山本周五郎商店」にちなんだ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。代表作には、「樅(もみ)ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「おさん」「青べか物語」「さぶ」などがある。1987年9月には、「山本周五郎賞」が新潮文芸振興会により設定された。
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