内容紹介
山本周五郎は「文学には“純”も“不純”もなく、“大衆”も“少数”もない。ただ“よい小説”と“わるい小説”があるばかりだ」を信念とし、普遍妥当性をもつ人間像の造形を生涯の目的とした作家で、時代小説を中心に沢山の作品を残しています。
その作風は今なお古臭さを感じさせず、繊細に描かれた人の心の機微や人情に、思わず笑わされたり、胸を打たれたりする魅力に溢れています。
<あらすじ>
河津小弥太は、明日家まで来るようにとのご中老・河津庄太夫の言葉を聞くと、子供が褒美でももらうときのように、いそいそと元気良くうなずいた。長年待ち望んでいた、庄太夫の娘・伊勢との縁組の話が進むと思ったのだ。
だが小弥太は、下城の最中に渡り廊下ですれ違った若侍の灰山久兵衛を冗談半分に投げ飛ばしてしまう。半時間後、小弥太は物頭たちの前で謝りながら、どうか庄太夫にはこのことを黙って欲しいと頼み込む。呆れたように何も言わない物頭たちに、穏やかならぬものを感じながら、小弥太は翌日の訪問までには、ひたすら用心することを己に誓って下城した。
翌日庄太夫の屋敷を訪れた小弥太は、玄関先の侍に冷たくあしらわれ、さらには一時間以上も控えの間で待たされた。さらにはやっと現れた庄太夫から、内緒にと頼んでいた昨日の灰山九兵衛のことで文句を言われ、小弥太の苛立ちはどんどん高まり、ついには自分のやらかしたことを正当化しようと抗った。その態度を見た庄太夫は、娘の伊勢との縁組は取り消しにすると言い出したのだった……
山本周五郎(やまもと・しゅうごろう)
1903〜67年。小説家。山梨の生まれ。本名・清水三十六(さとむ)。名は生まれ年からつけられ、筆名は東京で徒弟として住み込んだ質屋「山本周五郎商店」にちなんだ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。代表作には、「樅(もみ)ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「おさん」「青べか物語」「さぶ」などがある。1987年9月には、「山本周五郎賞」が新潮文芸振興会により設定された。
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